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ラボ実験7:高純度Ge検出器による高分解能ガンマ線スペクトロスコピー

目的:

  1. 高純度ゲルマニウム(HPGe)検出器を使用して高分解能ガンマ線エネルギー測定技術を実証します。
  2. 高分解能システム(HPGe)と低分解能システム(NaI)の計数性能の違いを理解します。

必要な機器:

理論の概要:

半導体検出器

ガンマ線の検出に半導体検出器を使用することで、検出能力は飛躍的に向上しました。NaI検出器で検出できるガンマ線のピークは、高分解能検出器と比較して非常に幅広くなるため、互いに近い2つのピークが分解できず、低エネルギーのピークを容易に観測できない可能性があります。リチウムで補償されたゲルマニウムまたはシリコン製の半導体検出器によって、エネルギー分解能は著しく向上しました。

半導体検出器の空乏領域の厚さ(空乏深度)dは、次式で得られます。

ここでは、
εを誘電率、
Vを逆バイアス電圧、
Nを半導体材料中の正味不純物濃度、
eを電子電荷とします。

ガンマ線スペクトロスコピーでは、電荷を完全に収集し効率を高めるために大きな空乏領域が必要になります。そのため、印加された逆バイアス電圧に対して、できるだけN値を小さくする必要があります。現行の高純度ゲルマニウム検出器は、正味不純物濃度を0.8 × 1010cm-3まで低減できています。

絶縁体では、価電子帯(充満帯)と伝導帯(完全に空のエネルギー帯)の間のバンドギャップが大きく、電界や温度上昇がなければ、価電子帯の電子がギャップを通過して伝導帯に達するのに十分なエネルギーが得られません(図7-1)。しかし、半導体ではバンドギャップが小さいため、電子は温度の上昇、荷電粒子の入射、電界の印加によって価電子帯から伝導帯に移動するのに十分なエネルギーを得られます。電子が価電子帯から伝導帯に移動すると、価電子帯があった場所に正孔が生じます。正孔は正の電荷を持つ粒子のように振る舞い、半導体全体の導電性に寄与します。

図7-1:絶縁体と半導体のバンド構造(Eg:バンドギャップエネルギー)

高純度ゲルマニウム(HPGe)検出器

ゲルマニウム検出器とは、p-i-n構造(P型コンタクト、固有層、N型コンタクト)を有する半導体ダイオードで、固有領域(i)が電離放射線、特にX線やガンマ線に対して高感度になります。逆バイアス下では、電界はこの固有領域または空乏領域全体に広がります。検出器の空乏領域内で光子が物質と相互作用すると、電荷キャリア(正孔と電子)が生成され、電界によってp電極とn電極に掃引されます。この電荷は、入射光子によって検出器に蓄積されたエネルギーに比例し、積分電荷感応型プリアンプによって電圧パルスに変換されます。同軸検出器(図7-2)では、半導体接合を形成する整流接点は通常、結晶の外面に配置されます。したがって、n型HPGeの外接点はp+、内面はn+になります。このような検出器の空乏層は、電圧が増加するにつれて内側に向かって拡大します。

ゲルマニウムはバンドギャップが比較的小さいため、電荷キャリアの熱発生(つまり逆漏れ電流)を許容レベルまで低減するためにこれらの検出器を冷却する必要があります。これを行わないと、漏れ電流から生じたノイズが検出器のエネルギー分解能を破壊します。-196°Cの液体窒素は、従来このような検出器の冷却媒体として使用されてきました。最近の検出器の多くは電気冷却システムを備えているため、液体窒素の必要はありません。半導体検出器には2つの欠点があります。第一に、高純度結晶やリチウム補償結晶はNaIほど大型化することはできないため、同程度の効率を持つ検出器を作ることができません。第二に、半導体検出器は使用時に液体窒素に近い温度まで冷却する必要があるため、コストがかかることとシステムが複雑になることが挙げられます。

図7-2:逆バイアスを印加した典型的なp-i-n接合検出器(左図)と円筒軸に垂直なn型同軸検出器の断面(右図)

エネルギー分解能

ゲルマニウム検出器のエネルギー分解能は次式で得られます。

ここでは、
wdを検出器効果によるピーク幅、
weを電子効果によるピーク幅とします。

ピーク幅wdはエネルギーに依存し、次式で得られます。

ここでは、
Fをファノ係数、
wを電子正孔対を生成するのに必要なエネルギーとします。

ゲルマニウムではw(≈3eV)が低いため電子正孔対が多数生成され、その結果、電荷収集から良好な統計が得られ、エネルギー分解能の向上につながります。

ピーク幅weは、検出器のキャパシタンスとバイアス電圧の両方に依存し、このキャパシタンスは検出器の大きさに依存します。キャパシタンスが低下するにつれて全体的な分解能は向上します。

典型的な広エネルギー検出器(BE2825)の分解能は、5.9keVで0.4keV、1332keVで2.0keVとなります。

実験7の手引き:

分解能の比較

図7-3:HPGe検出器のセットアップ

1. HPGe 検出器が(Lynx II DSA経由で)測定用PCに直接またはローカルネットワーク経由で接続されていることを確認します。

2. 137Cs線源を検出器の前に設置します。

3. ProSpectガンマ分光ソフトウェアを起動して、HPGe検出器に接続します。

4. 表7-1の設定に従ってMCAの設定を構成します。

5. ソフトウェアを使用して、推奨される検出器バイアスをHPGe検出器に適用します。この設定は、検出器仕様書または検出器本体の側面に記載されています。

6. 全エネルギーピークがスペクトルの範囲の40%になるようにアンプのゲインを設定します。

7. スペクトルを取得します(全エネルギーピークのカウント数が少なくとも10,000になるようなカウント時間を使用)。

8. 光電ピークのエネルギーが662keV近くに達するようにエネルギー校正を調整します。

9. 以下の項目を記録/測定して137Csの光電ピークを算出します。
a. セントロイドチャネルとエネルギー
b. ROI範囲(チャネルとエネルギー両方)
c. FWHM
d. d. ピーク面積(正味面積、正味面積の不確実性、総面積を含む)
e. 分解能(FWHM(keV) * 100 / セントロイド(keV)を計算して%単位で算出)

10. 実験1でNaI検出器を使用して取得した137Csスペクトルを読み込みます。[プリファレンス] タブで、このスペクトルとステップ7で取得したスペクトルを比較します。また、両スペクトルの全エネルギーピークのFWHM値を比較します。

11. 60Co線源を設置し、1173keVと1332keVの2つの最大ピークがスペクトルの上部3分の1に表示されるようにスペクトルを収集します。

12. 1173keVと1332keVのピークを使用してスペクトルのエネルギーを校正します。

13. 1332keVピークのFWHMをkeV単位で記録します。可能であれば検出器の仕様値とこの値を比較します。高エネルギー用途におけるゲルマニウム検出器の分解能には多くの場合、1332keVが設定されます。

14. 57Co線源を設置してスペクトルを収集します。121keVピークを観測します。

15. 121keVピークのFWHMをkeV単位で記録します。可能であれば検出器の仕様値とこの値を比較します。低~中エネルギー用途におけるゲルマニウム検出器の分解能には多くの場合、このエネルギー値が設定されます。

表7-1:Lynx II DSAにおけるHPGeの標準ゲインとフィルター設定

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