ラボ実験例8:ガンマ線効率校正
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目的:
- ガンマ線エネルギーの関数として用いるNaI検出器とHPGe検出器の効率を測定する手順を示します。
- 効率校正の概念を学びます。
必要な機器:
理論の概要:
放射線源から放出される一定数の光子(ガンマ放射線)は、検出器(例:NaIシンチレーションまたはHPGe検出器)を使用して検出されます。放射線源から放出される光子数は、検出器が観測する光子数よりも常に大きくなり、線源から放出される光子数に対する検出器によって検出/観測される光子数の比は、検出効率として知られています。検出効率εは次式で得られます。
ここでは、
Nmeasを検出器で観測されるカウント(光子)数、
Nemitを線源から放出される光子数とします。
ほとんどの応用分野で、全エネルギーのピーク効率が重要な意味を持ちます。上記の方程式では、Nmeasを全エネルギーピークのカウント数、Nemitを特定エネルギーに対して放出される光子数とします。
図8-1:137Csの崩壊スキーム
検出器で観測されるカウント数は、検出器のサイズ、原子番号、密度などの特性に大きく依存します。観測されるカウント数は、線源の放射能、線源と検出器間の距離や材質にも依存します。線源の放射能は線源の崩壊(または分解)速度で定義され、通常はベクレルまたはキュリーを単位として表されます。1秒ごとに崩壊する原子核の数は1ベクレルで1個、1キュリーで3.7×1010個となります。ほとんどの原子核では、一定のエネルギーに対して放出される光子の数は崩壊する数と同じではなく、通常は少なくなります。娘核種が別な崩壊経路を有する可能性も、計測対象の遷移が別な遷移によってバイパスされる可能性もあります。崩壊によって放出されるガンマ線の総数は1を超える場合があります。内部変換などのその他の崩壊メカニズムは、ガンマ線放出と競合します。あるガンマ線エネルギーの1崩壊あたりのガンマ線数を表すのに使用されるパラメーターは、強度または収率が知られています。予想されるカウント数は方程式8-2で得られます。
ここでは、
Aを1秒あたりの崩壊による放射能(またはBq)
、Yをガンマ線の収率、
tを秒単位の時間とします。
線源の放射能は通常、特定の日付を基準として指定します。実験時の放射能を算出するには、方程式8-3を使って減衰補正する必要があります。
ここでは、
Aを実験時の放射能、
A0を基準日の放射能、
tを基準日からの経過時間、
t1/2を対象核種の半減期とします。
追跡可能なすべての放射性線源には線源証明書が付いており、測定された日の放射能がベクレルまたはキュリーで記載されています。かし、証明書によっては放出率が1秒あたりのガンマ線放出率で記載されているものもあります。その場合、これらの値には収率や強度が考慮されていることを意味します。このような記載は表8-1に示すような混合ガンマ線源でよく見られます。
表8-1:混合ガンマ線源の典型的な線源証明
測定効率は、絶対効率、固有効率または相対効率によって表されます。絶対効率とは、光源から放出された光子数に対する検出された光子数の割合です。固有効率とは、検出器表面に入射した光子の数に対する検出された光子数の割合です。絶対効率と固有効率は、全エネルギーピークの計数となる光子のみを考慮した全エネルギーピーク効率として表すことができます。多くの場合、ゲルマニウム検出器の効率は相対効率で表されます。以下の図は、NaI(Tl)検出器(7.6cm x 7.6cm)で60Co線源(1332keVピーク)を25cmの距離で測定した場合の相対効率を表しています。
図8-2:混合ガンマ線源の典型的なNaIスペクトル
実験8の手引き:
NaI検出器(5cm x 5cm)の使用
1. 152Eu標準線源をNaI検出器(5cm x 5cm)の器体表面から約20cmの距離に設置します。
2. 実験1の推奨事項に従ってMCAの設定を構成します。
3. スペクトルの高エネルギー領域に1408keVのピークが表示されるように、MCAのコースゲインとファインゲインを調整します。
4. スペクトル全体の主要ピークのいくつかで少なくとも10,000カウントに達していることを確認しながらデータを取得します。必要に応じて実験2を参照して、エネルギー校正を行います。
5. 証明書ファイルに記載されている各主要ピークの正味ピーク面積と不確かさを測定します。方程式8-1を使用して、各ガンマ線ピークの効率を決定します。また、効率の不確かさも計算します(必要に応じて77ページに示す参考資料4を使用してください)。この計算に、1秒あたりのカウント数ではなく、方程式8-1のようなカウント数を使用する場合は、最初に証明書ファイルに記載されているガンマ線放出率を、取得中に放出されたガンマ線のカウント数に(取得時間を乗じて)変換する必要があります。簡単に参照できるように光子強度を表8-2に示します。
表8-2:主要な152Euガンマ線の分岐比
6. Microsoft Excelやその他のプログラムで、エネルギーと効率(および不確かさ)の相関図を作成します。作成された相関図には、図8-3と同じような傾向が見られるはずです。曲線の形状についてコメントします。
図8-3:エネルギー関数として用いるNaI検出器の典型的な効率
HPGe検出器の使用
HPGe検出器を用いた線源効率の測定方法は、NaI検出器(5cm x 5cm)の場合と同様です。
得られる結果の主な違いは、HPGe検出器の方がNaI検出器よりもはるかに優れた分解能を有することで生じます。HPGe検出器の標準的な分解能は0.2%未満で、NaI検出器は約7.5%に達します。
1. Lynx II DSA(HPGe検出器が接続されている)が直接またはローカルネットワーク経由で測定PCに接続されていることを確認します。
2. 調節可能な線源ホルダーを使用して、152Eu基準線を高純度ゲルマニウム検出器のエンドキャップから約20cmの距離に置きます。この距離を記録しておきます。計数前に検出器からプラスチック製のキャップを取り外します。
3. ProSpectガンマ分光ソフトウェアを起動して、Lynx II DSAに接続します。
4. 実験7の推奨事項に従ってMCAにHPGe検出器向けの設定を行います。
5. ソフトウェアを使用して、推奨される検出器バイアスをHPGe検出器に適用します。
6. PHA変換ゲインを32768チャネルに設定します。
7. スペクトルの上部に1408keVのピークが見えるように、MCAのコースゲインとファインゲインを調整します。
8. スペクトル全体の主要ピークのいくつかで少なくとも10,000カウントに達していることを確認しながらデータを取得します。必要に応じて実験1を参照して、システムのエネルギー校正を行います。
9. 表8-2が示す各主要ピークの正味ピーク面積と不確かさを測定します。方程式8-1を使用して、各全エネルギーピークにおける効率を決定します。また、効率の不確実性も計算します(必要に応じて77ページに示す参考資料4を使用してください)。この計算に、1秒あたりのカウント数ではなく、方程式8-1のようなカウント数を使用する場合は、最初に証明書ファイルに記載されているガンマ線放出率を、取得中に放出されたガンマ線のカウント数に(取得時間を乗じて)変換する必要があります。簡単に参照できるように光子強度を表8-2に示します。
10. Microsoft Excelやその他のプログラムで、エネルギーと効率(および不確かさ)の相関図を作成します。その結果をNaI測定で決定した効率と比較します。
11. 152Eu標準線源を取り除き、同じ距離の60Co線源と交換します。2つの主要ピークのカウントがそれぞれ少なくとも10,000カウントに達するまでカウントします。方程式8-2と8-3とステップ10で計算された効率曲線による補間を用いて、60Co線源の放射能を決定します。得られた結果と60Co線源証明書のデータにはどのような違いがありますか。
12. 137Cs線源でステップ11を繰り返します。得られた結果と線源証明書の放射能のデータにはどのような違いがありますか。
13. 線源を1つ使用して、10cmと25cmの距離に設置します。それぞれの位置で一次ピークのカウントが約10,000に達するまでカウントします。各形状の効率曲線を計算します。両者にはどのような違いがありますか。効率が距離の二乗の逆数に比例することを実証できましたか。